愚者はのらくら月へゆく

久間健裕の日々のあれこれ

舞台『寸劇の館』を見た。

今や関東有数の笑いの発信地となったユーロライブ。芸人と劇団、お笑いと演劇の架け橋として毎月開催されている「テアトロコント」シリーズの特別編として今月開催された舞台『寸劇の館』を観に行った。

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作・演出はブルー&スカイ。出演は池谷のぶえ、吉増裕士、フロム・ニューヨークのメンバーであるブルー&スカイ、市川訓睦、中村たかし、テニスコート神谷圭介、小出圭祐、吉田正幸の8名。

ブルー&スカイといえば、今や絶滅危惧種とも言える純正ナンセンス・コメディの作り手。その出鱈目かつ後に何も残さない笑いの潔さは芸術的ですらある。その精神は宣伝美術にも貫かれていて、公演フライヤーは観音開き型になっているにも関わらず、広げても内側には情報が何一つ書かれていないという、美しすぎる無駄デザイン。既にナンセンスの種が撒かれている。

あらすじはこう。

酒場で酒を煽りながら無意味な話をしている3人組と酒場の女将。女将の息子はサッカー部のエースでありながら女子生徒に全くモテていないという理由で気持ち悪がられ、死刑を宣告されてしまう。動くことすらめんどくさがる村人たちのおかげで死刑はなかなか執行されないが、息子がつけた強そうなお面のせいで指令を聞かざるを得なくなった女将は、息子を救うために危険だと言われている村の外れの森へと旅立つことになってしまう。そこには謎の紳士が暮らす惨劇の館、ならぬ寸劇の館があったのだった…。

導入から既に出鱈目でよく分からない。一応のプロットとしては「死刑を宣告された息子を救うために母親が危険な森に出向き、謎の男が暮らす館へと辿り着く」という筋書きだが、筋がなぞられているだけで整合性はめちゃくちゃ。サッカー部のエースのくせに女子生徒にモテない息子が世の理に反しているという理由で死刑になる、という部分でもう既にこの芝居をまともに受け取る必要性がないことが分かる。

そこからは4本の寸劇=コントが披露される。フロム・ニューヨークのコント2本、テニスコートのコント1本、ブルー&スカイの新作コント1本。テニスコートのコント『黒魔術』は彼らの単独公演でも披露されていた名作。ただ、一番ウケていたのは新作の吉増裕士とブルー&スカイの二人コントだった。机が一つに椅子が二つ、動きも特にない会話劇であれだけウケるのは単純にすごいと思った。ブルー&スカイのナンセンス、ここに極まれり。

そして、話を強引にまとめるようにミュージカル調の大団円へ。最後の最後までナンセンスで締めくくる最高の舞台だった。これを書いている時には何一つ覚えていない。それで良いのだ。