愚者はのらくら月へゆく

久間健裕の日々のあれこれ

バナナムーンGOLDオークラ回を聴いて 〜 個人的バナナマンの名作コント10選

先週のバナナムーンGOLDバナナマンお二人とも欠席の回で(ワクチンの副作用で休養中)、代役として作家のオークラさんがゲストの東京03の飯塚さんと共に「この夏見て欲しいバナナマンのコント10選」を発表していた。

オークラさんが選んだコントはこちら。

1. オサムクラブ
2. ルスデン
3. お前の姉ちゃん見たよ
4. secretive person
5. Fraud in Phuket
6. 二重思考人間
7. dumb cluck
8. THEOMAN ISLAND
9. Air head
10. scrambled

バナナマンを語る上では外せない名作『ルスデン』や『secretive person』はともかく、『お前の姉ちゃん見たよ』などのかなりマイナーなコントを出してくるあたり、バナナマンという稀代のコント師をずっと近くで見てきたオークラさんならではの選出だなと。

『宮沢さんとメシ』(飯塚さん推薦)や『a scary story』などが選考漏れしていたのは意外だったが、他の場でもよく名前が挙げられているコントや、オークラさんが創作にがっつり絡んでいるコントなどは省いたんだろうと思う。

 

そこで今回は、オークラさんが選出したコント以外で個人的にオススメしたいバナナマンの名作コントを列挙してみたい。

 

1. CLEVER HOSTAGE(『激ミルク』収録)

のちに『30minutes』というドラマで映像化もされる、『ルスデン』に次ぐ初期バナナマンの代表作の一本。「誘拐」をテーマにしたコントは様々な芸人が作っていると思うけど、正直、これを超える誘拐ネタは見たことがない。人質という立場的に弱い設楽さんが、誘拐犯である日村さんを口だけで上手いこと丸め込んでいくという立場逆転構造の面白さと、初期ならではのブラックな展開をコミカルな芝居でコントに仕上げていく演技力の高さ。脚本と演者、両方がハイレベルだからこそ成立する素晴らしいコント。

 

2. pumpkin(『ペポカボチャ』収録)

初めて見た時は面白さはもちろん、ある種の恐怖すら感じたコント。「詭弁」をコントにするのはかなり難しいと思っていて、演者同士はもちろん、見ているお客さんをも納得させるような説得力がないと白けてしまう。その点において、カボチャひとつで人を奴隷にする、という非常に無理のある理論を会話のやりとりだけで難なく成立させてしまう設楽さんの卓越した詭弁力は凄まじい。設楽統がカイザーと呼ばれる所以が詰まった名作。

 

3. for people(『good Hi』収録)

単独を締め括る大ネタの中では地味なコントだけど、個人的に好きなので選出。教師と探偵の兄弟がとある理由から金を工面するために小競り合いする、という設定なのだが、それを小学校のプールサイドで行うというセンスが凄い。少し暗めな内容を明るくノスタルジックな空間で描くことによってポップなコントにしている、バナナマンの世界観の変遷が垣間見える一作。また、タイトルの意味がオチで判明するというニクい演出も好き。

 

4. too EXCITED to SLEEP(『kurukuru bird』収録)

ラジオでオークラさんも話していたが、バナナマンは粒立てる程でもないような地味なあるあるをコントに昇華させるのが非常に上手い。これも、友達の家に泊まって寝る前が一番テンション上がる、いわゆる深夜のノリをそのままコントにしている。ボケもツッコミも存在しない「バカ騒ぎ」という、ありそうでなかったコントの傑作。

 

5. a shocking move(『spicy flower』収録)

芸人・日村勇紀が天才なことは誰もが認める事実だと思うけれど、とりわけ稀有な才能として、追い詰められても可哀想に見えない、という部分がある。同情してしまいそうな状況でも悲壮感よりも滑稽さが勝ってしまうキャラクターは、チャップリンキートンもそうだったように彼が一流のコメディアンである何よりの証。ありえない欠陥住宅に引っ越してきてしまった日村さんが意固地にそれを認めようとしない姿は悲哀だけでなく可笑しみに溢れていて、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」をしっかり体現している。

 

6. Wind Chime(『疾風の乱痴気』収録)

全体で40分近くあるバナナマン屈指の長編コントだが、完成度はピカイチ。前半は日村さん扮する売れない俳優がいまひとつ面白くないエピソードを語る姿で笑わせて、後半はそのエピソードを組み立ててみると実は知らず知らずの内にドラマチックな事件に巻き込まれていたという謎解き要素も含めた展開で笑わせるという見事な構成。ハートフルなオチも含め、個人的には中期バナナマンの最高傑作だと思っている。

 

7. a guard(『DIAMOND SNAP』収録)

『宮沢さんとメシ』は「いきなり宮沢りえと食事に行けることになったら」という状況をコントにしているが、こちらはテレビ局のガードマンが「もし上戸彩が彼女だったら」という妄想を繰り広げるというコント。男子高校生がしてそうなバカ話をしっかりコントとして成立させる手腕と、世俗的な固有名詞を使っても失われない確固たる世界観。これはバナナマンの専売特許と言っても過言ではないと思う。

 

8. 喫茶Turquoise(『TURQUOISE MANIA』収録)

こちらもバナナマンの専売特許となりつつある「一人二役コント」シリーズの内の一作。今まではラストで用いられることが多かったシステムだが、この公演から中盤にこのタイプのネタが置かれることが多くなった。とにかく見て貰えば分かるのだが、バナナマンが今まで培った技術を総動員しつつ、更に次のフェーズへと向かったのが分かる非常に盛り沢山なネタ。

 

9. Bitching(『one-half rhapsody』収録)

近年のバナナマンのコントは、初期のような物語や世界観で魅せるようなコントが減る代わりに、個々のキャラクターや実際のエピソードなどを軸にした等身大のコントが多くなる。このコントは特にそう。内容は今のご時世的にかなりキワキワを攻めていて、人によってはあまり笑えないかもしれない。ただ、他のコントでも繰り返し描かれる「人は話さないと分かり合えない」という設楽流哲学がストレートに描かれていて、笑いながらも考えさせられる。また、日村さんのエピソードを知っていると初手は絶対に騙されること請け合い。

 

10. searching for the superactive(『S』収録)

現時点での最新公演『S』の中で、最も度肝を抜かれたのがこのコント。いわゆる『too EXCITED to SLEEP』に代表されるツッコミ不在のバカ騒ぎ系コントなのだが、謎解きゲームそのものをコントの題材にしてしまうという荒技はかなり衝撃的だった。誰も手をつけなかった(つけられなかった?)ものをネタに昇華出来てしまう、バナナマンの強みが十分に発揮されたコントであると思う。

 

印象的だったコントをずらっと挙げてみたが、これでもまだまだ一部であり、全部書き出すと流石にキリがない。この拙い文章でもバナナマンのコントに興味を持った方がいらっしゃったら、ぜひDVDなどでご覧になって欲しい。